『古典』の「個展」

『古典』の魅力に気づき、多くの人に古典の魅力に気づいてほしいので開設しました。

【陰翳礼讃】昔と今の日本の美意識

こんにちは。MASANORIです。 

このブログは「古典を世に広める」ことをテーマに日本や海外の古典の書評をしていくものです。

今回は日本の美について語っている『陰翳礼讃』を読んでみました。

結論から言うと「今の日本人にはあまり合わないかもしれないが、今の日本人でも本書の言いたいことは分かる気がする」という感想です。

では初めに内容を簡潔に、今の人達ならどういう風な印象を受けるのか、を自身の考察を交えて語りたいと思います。

 

 目次

 

本の概要

この本が発売されたのは1933年で著者は谷崎潤一郎

彼は小説家で明治末期から昭和初期まで生きた人で、「陰翳礼讃」は彼が43歳の時に書いた随筆集です。

主な内容は「日本の美意識を改めて見直す」ことをテーマとして書かれており、

また、日本の美意識を日本の生活から考察しています。

早速見ていきましょう。

 

1厠(トイレ)

彼は厠は精神が休まるところだと同時に日本建築物の中で最も風流なところだと述べています。しかしそれにはいくつかの条件を満たさないといけないとも語っています。

条件は薄暗さ静かさ清潔さです。

理由は薄暗さと静さがある狭い空間があることで自己を見つめなおすことができるからです。

また清潔さは言うまでもなく、汚く臭い所よりも綺麗である方が心が静まるからです。

 

 今との比較「厠」

現在私たちは本当にトイレに薄暗さを求めているのでしょうか。

電気社会で暮らしている中でトイレを電気のライトをつけないままする人はいないでしょう。

しかし、著者が厠に求めている条件のうち2つである清潔さと静かさは現在にも通じますよね。

 また、トイレで考え事や勉強する人達は今でも多くいます。

 理由は「集中できるから」でしょう。

 私たちは暗さは求めていないものの、「個室」という閉塞感を求めていると思います。

 個室があることで初めて己と向き合えるのです。

 例えば、風呂の浴槽、お風呂に入ることで体を清潔にし、湯船でつい考え事や独り言をしてしまうことってありませんか。

だから、日本人は「個室という陰りは無いが派手ではない閉塞感」というものを求めているのではないでしょうか。

 

2紙と食器

ここでは東洋、西洋それぞれの紙と食器について語りたいと思います。

 谷崎は東洋の紙と西洋の紙の比較でこう語っています。

 

「東洋の紙は温かく、初雪のような柔らかい印象を受け、西洋の紙はツルツルしていて恐ろしい印象を受ける。」

 

 

また、食器を見ても東洋と西洋の違いが分かると述べていました。 

東洋は漆を使った漆器や土と水を合わせて出来た粘土で作った焼き物が有名です。

一方、西洋は銀、錫などを使い光沢があるように作られた陶器が多いですよね。

 

谷崎は日本の食器を褒めています。

漆器の蓋があることで味噌汁の中身が分からないというワクワク感を楽しんだり、

普段から光沢のない漆器が光に照らされると高級感が増して、より神秘的に感じたりすると述べています。

しかし、西洋の食器は白を基調としているので汚れが目立ち、光の反射で眩しく感じてしまう。

そこが西洋の食器が東洋の食器よりも劣っている所であるそうです。

 

今との比較「紙と食器」

まず紙についてですが、今では和紙を普段使いする日本人は少ないと思います。

なぜなら、現代はコピー技術が発達しているので和紙よりも西洋の紙が好まれているからです。

また、多くの学生が使うルーズリーフはリチャード・プリンティスエッティンガーというプリンストン大学の学生が1854年に発明したそうです。

このように西洋の人達の発明は合理的で生産的なものが多い気がします。

一方日本の和紙というものは西洋とは対照的に情念的なものを持っている気がします。

和紙は様々な材料で作られます。代表的なものは麻、梶の木から作られる穀、檀などです。 

昔の日本では、懐紙というお菓子の上にひく紙として男性が好んでいたのは厚手の檀紙に対し、女性が好んでいたのは薄手の雁皮紙です。 

このように男女によって同じ用途でも紙の種類が違うということは、お気に入りのペンを使いたがるように愛着があるものだと思います。 

一方、西洋の場合は多少の愛着はあると思いますが、ほとんど差が無いので気にしないし、紙の質に対しては偏りが少ないので無個性であるといえます。

つまり、西洋は書けるものとして紙という手段を使いますが、日本は用途だけでなく質にこだわることでその人の個性を出すものであるということです。

 

次に食器についてですが

現代の日本の家庭では西洋の食器が多く使われていますよね。

日本の食器である漆器は伝統的な行事ごとである、お雛祭りやお正月の重箱に使われることが多いです。

したがって、日本の食器は西洋と比べると出番は少ないものの需要はあります。

 

そして気がついたことなのですが、

黒の食器にはものの見栄えを良くする利点があると思います。

例えば、ごはんが盛られるときに黒いお茶碗を使うとごはんのみずみずしさや、ホカホカ具合を表現できたり、お肉料理を黒いお皿に盛りつけることで高級感が増す気がしますよね。

こんなところにも陰翳礼讃を感じることが出来ます。

 

3建築

次に日本の建築についてですが、谷崎は日本の家の軒について語っています。

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これは屋根が家の本体よりも大きく作られることでできるものなのですが

ここに陰りがあることで軒先の空間に影ができ、陰翳礼讃を感じることが出来ると谷崎は語っています。

 

また、部屋に置く掛け軸にも陰りが垣間見えて、「床移り」を感じると述べています。

床移りとはものを置いたときにあらわれる影のことです。影があることで日光に照らされた部分と影の調和で空間を趣のあるものへとなっていくのです。

またこの部分に気づけるのも日本人特有なものではないかと語っています。

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床うつりと空間

どうですか。言葉より写真の方が分かりやすいので画像を入れてみました。

西洋の空間と比べてみましょう。

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ベルサイユ宮殿

わかりやすくバロック技術の建築であるベルサイユ宮殿で比べてみました。

こう見ると日本と西洋の建築が真逆であることが分かりますよね。

日本は質素な木製の家具、対して西洋は金や大理石で作られた家具や装飾品の数々。

日本の伝統的な家には必要最低限のものしか家には無く、現在流行中のミニマリストの部屋と似ているものを感じます。

谷崎は西洋よりも日本の暗い部屋を好みました。それは日本の美意識に感化されているからでしょう。

また窓でも西洋と日本では違いが あります。

西洋は日光が部屋の中でも差せるように窓を配置し、日本では障子を通して日光からくる温かい光を感じる。ここでも合理的な部分と情念的な部分を感じます。

 

今との比較「建築」

現在の日本の住宅はどうでしょうか。

今の日本の家屋は西洋式のものが多く、畳部屋が少なくなっていますよね。

このことを踏まえると西洋的になっているかもしれません。

しかし、現在、デキるビジネスマンの間でミニマリストという単語が流行っている気がします。これは浪費を少なくし、必要最低限なもので生活をするというものです。

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ミニマリストの部屋

この家の風景が現代では流行っているそうです。

正直やりすぎなのではないかと思うのは私だけでしょうか(笑)

でもこれって、日本と西洋の融合だと思いませんか。部屋の家具は西洋のものだけれども、必要最低限のものしか置いていないことは日本の禅の文化に傾倒している気がします。

 

まとめ

いかがだったでしょうか。原作は他にも日本の文化である能も陰翳があるから良いものであると述べています。

このように日本には昔から知らないところに陰翳があるのです。「陰翳があるからこそ、輝くものが見える、それが日本の美意識だ」谷崎はそう言いたかったのかもしれません。

 

私は現在の日本の文化は昔の日本に戻っていると思います。ミニマリストをはじめ、

鬼滅の刃渋沢栄一の「論語と算盤」など今流行っているものがほとんど日本の古来の思想や歴史が関わっていると思います。

皆さんも陰翳礼讃を読んで日本の美意識を見つめなおしてはいかがでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございました。